女性人権機構は女性が直面する人権問題に取り組み、
問題解決を目指す団体です。
【2024.10.29】(読書会)私はあきらめない。著者と一緒に『政治を再建する、いくつかの方法を』考える
物価高、微々たる賃上げ、進まない夫婦別姓、裏金問題など、私たちの生活は苦しくなるばかりであると同時に、政治に失望させられるニュースが次々と明らかになっています。政治が機能していると思う人は多くないでしょうが、政治制度についての理解や議論が十分なされているとは言えないのも事実でしょう。
本読書会では『政治を再建する、いくつかの方法』(2018)の著者である大山礼子先生(駒澤大学名誉教授)を講師に、山口慧子さん(市川房枝記念会女性と政治センター理事)がファシリテートしながら、基本的な、しかし勘違いの多い政治制度を見直し、また解決の糸口を探りました。
【山口】
本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
私はこれまで地方自治体や国といった意思決定機関に対し、市民社会の立場から働きかけをしてきた者なのですが、同書を読んで、自分がいかに政治制度に対し無知だったかということに気づかされました。まず大山先生が同書を執筆された動機について、教えていただけないでしょうか。
【大山】
今、山口さんが仰ったことが、まさに私の狙いでした。専門家も多くいる研究会であっても、やはり皆さん政治制度のことを知らないのですよね。根拠なく印象だけで、日本の国会議員数は多すぎると思い込んでいたり。そういった誤解を解きたいと思いました。
また、参加者の皆さんの中には、女性議員を増やそうと活動している方も多いと思いますが、そのような活動している方であっても、どのように議員が選ばれているか実は分かっていない方もいる。投票結果がどう議席配分につながるか、その制度について理解していないと、女性議員を増やしたり、政治を変えることはできないのではないかと思います。その辺りのことをなるべく分かりやすく書きたいと思ったのが動機になります。
【山口】
ありがとうございます。では、第一章から見ていきたいと思います。
第一章ではアメリカやイギリスとの比較で日本の首相の位置づけや権限について論じられていました。アメリカの大統領は国家権力すべてを握っているというわけではなく、あくまでも行政府の長として議会に対するチェック権限を担うことが役割であるとのことですが、大統領の影響力は非常に大きく、政策を強力にリードしているように見えます。
【大山】
それが勘違いなのです。アメリカという国は軍事力も経済力も強力で、大きな影響力を持っている。でも、それは大統領の強さではありません。議院内閣制の国とは異なり、アメリカでは連邦議会が強い権限を持っており、必ずしも大統領が議員のリーダーというわけではないのです。共和党の議員が共和党の大統領の政策に必ず賛成するということはなく、いちいち賛成者を集めないと法案が通らない。4年前にトランプが大統領だった時に公約した国境の壁建設についても、連邦議会で予算がつかないのでできていないですよね。
一方、トランプ時代に任命した最高裁判事によって中絶の権利が危うくなっています。日本の最高裁は違憲判決を出すことに慎重ですが、アメリカでは割と簡単に判決を出します。そういう意味では、行政府のリーダーとしてやれることはいろいろとあると言えるでしょう。
【山口】
第二章では、議員法案であれ、内閣提出法案であれ、国会できちんと審議・修正されないことに問題があると指摘されています。日本のような議院内閣制の国々では、事前審査の時点で法案の賛成を確保し、本会議は政府対野党の論戦の場に終始してしまう、という残念な状況があるとのことです。
圧倒的に内閣や与党に都合の良い法整備が、修正されることなく成立していくことに恐ろしさすら感じます。私のような市民グループで活動している者は、こういう体制である以上、法律が制定されていく過程よりも、成立後に法律の見直しや改正を求め、徐々に望ましい法律の形に近づけていくよう活動に専念する方が効果的なのでしょうか。
【大山】
議院内閣制の国で内閣提出法案が主流になることは当たり前のことでしょう。選挙で「こういう公約を実現します」と誓い、賛同の票を得て与党になり、内閣が構成される。その内閣提出法案が優先的に審議されないのは、むしろ困ることだと言えます。
また、議院内閣制の国々で、法案に対する政府対野党の論争中心になることも当然で、「残念なこと」ではありません。ですが、そこでの標準モデルは、日本のように提出された法案がそのまま通るのではなく、むしろ与党が国会の中で「ここは再考した方がいいのでは」と提案し、調整がなされる。そこに国民の声が反映されるようさらに修正が加えられ、そして本会議の場で、与党と政府は一体になり野党と論戦をする。これが普通の議院内閣制の形です。
日本の場合、事前審査時に与党議員が意見をしていても、国民からは見えません。そして、事前審査時に全与党議員が承認したという前提から、議員には党議拘束がかかります。そうすると、国会では法案が確定しているし、与党の賛成も確保されているので、いくら市民団体が陳情をしても駄目なのですよ。私も国会に参考人として呼ばれることがあります。本来は法案を変えるために参考人の意見を聞く場を設けているはずなのに、全く成果がない。法案の改正に関しても同じ構造です。
やはり国会できちんと審議がなされ、そこで修正が反映されるようにするのが一番の近道だと思います。
【山口】
第3章では、議員の人数や構成について論じられています。
地方議会において議員のなり手不足は深刻で、都道府県議会および町村議会ともに、全体の2割の議員は無投票で当選しているような状況とのことです。一方女性議員比率については、いまだに町村議会の3割が女性ゼロというのが現実です。
そのような中、政治分野のジェンダーギャップ解消を目指して活動する若者のグループが、2023年の統一地方選挙で、多くの20~30代の新人女性候補者を当選に導きました。当該グループの選挙戦略が功を奏した結果であったと思いますが、地方議会における議員のなり手不足も関係していたのでしょうか。
【大山】
同書を執筆した当時と比較し、無投票での当選はさらに増え、一方女性ゼロ議会は少し減りました。
地方議会は本当にさまざまで、「目覚めた議会」と「眠っている議会」の差が大きくなってきています。従来議員をしてきた高齢男性たちが若い女性を後押ししているような地域や、上記のような活動があるおかげで、女性が立候補するとむしろ当選確率が高いようなこともあります。他方、そうでないところは相変わらず、その地域団体が推薦した高齢男性が立候補・当選するというパターンを続けています。人口が少なくなり欠員が出ているような地域もありますね。地方議会はバラバラで、一枚岩ではありません。
【山口】
さらに、公職選挙法が厳しすぎるとの問題も指摘されています。2022年には、4歳の息子をおぶった女性候補者が公職選挙法違反になるのではと批判が殺到しました。しかし、公職選挙法の規制を緩和することは、現職にとって競争相手が増え、かつ選挙運動に新しい工夫が必要になるため、現職は規制緩和に抵抗している、と分析されています。女性や若者など、新しく政治参画をしようとする候補者にとって公職選挙法が不利に働くような事例として、他にどのようなものがあるのでしょうか。
【大山】
供託金が高すぎるということや選挙運動期間がどんどん短くなっているのは問題です。衆議院議員選挙の場合、以前は選挙運動期間が30日ありました。どんどん短くなっているので、新人にとってアピールする時間が足りず不利に働きます。
【山口】
参加者の方から3つ質問がきています。
【大山】
一つ目の質問について、地方議会をクオータにするには女性議席を割り当てることなどが考えられますが、恐らく無理でしょう。地方議会は個人戦で、自分で地盤・かばん・看板を全て用意できる人でなければ立候補しにくいような状況にあるので、それを変えないと女性議員は増えないと思っています。地方議会に比例代表制の要素を加える、あるいは複数の候補者を選択できる「制限連記制」を導入するなどの方法で、政策本位の選挙を実現できれば、女性が増える可能性があります。
二つ目と三つ目の質問については、クオータ制など議員の多様化につながる制度を導入すれば、競争相手が増加し、男性議員の議席は減るので、現職は具体化したくないというのが本音です。他国でクオータ制が進んだのは、政党間の競争があったということが背景にあります。女性の有権者にアピールするために、野党が政党内をクオータにしたところ、競争原理が働き、他の政党でも導入が進んだというケースが多いようです。
しかし今の国会では、野党の言い分も聞かないと政権運営できなくなってきていますから、チャンスだと思います。
【山口】
第4章では、小選挙区制や比例代表制といった選挙制度次第で有権者の票がどう議席に変換されていくか。また、候補者を選定するための情報コストの話が出てきました。そして、最後の第5章では、権力をチェックする機能として期待される参議院、最高裁判所、そして国民について論じられています。この章に関して、強調したいことなどありますか。
【大山】
インターネット投票については、危険なので推奨しません。家族等から投票先を操作されやすかったり、サイバー攻撃を受ける可能性などもあります。それよりも「記号式」にすべきだと思います。投票用紙に自ら記入させる「自書式」の国は日本だけです。手が震えて識別不能のため無効票になっているケースが多くあります。
【山口】
たくさんの質問に答えてくださってありがとうございます。最後に参加者の皆さんに一言ありますか。
【大山】
参加者の皆さんは「目覚めている方」ばかりなので、申し上げることもないのですが、やはり国会議員を減らした方がいいとか、政党はなくした方がいいとか、政治的意識の高い人すらも言ってしまうことが多いのですよね。ですが、議員を減らすことは私たちの代表を減らすことを意味します。むしろ、代表にふさわしい人を選ぶにはどうしたらいいか。うまく選べないとしたら、どういう選挙制度に変えていくべきかということを議論したいと思います。今日はありがとうございました。
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